地域包括支援センターから、個別ケースの検討を行う地域ケア会議に対して事例提供を呼び掛けてもケアマネージャーが難色を示す場合は多くあります。
『どんな事例を出したらよいかわからない』『吊るし上げに合うんじゃないか』など良く聞こえますね。
支援困難な事例提供でも、自立支援に向けた事例提供であっても、基本的な事項が押さえてあれば、厳しいことは言われません。
むしろ、自身に無かった視点での助言を貰えて、勉強になることも多くあります。
地域包括支援センターの方も、ケアマネージャーの方も、事例提供する際の準備として、どのようなことに注意しておけば良いかをまとめてみました。
これを読んで、事例提供に怖がらない方が増えてきたら、嬉しいですね。
目次(もくじ)
事例の選び方
『自立支援型地域ケア会議の概要』の記事でも触れましたが、自立支援型の想定対象者は、軽度認定者です。
要支援~要介護1の軽度認定者と呼ばれる方々のおよそ半数は『廃用性症候群関連』によるものと言われています。
高齢による衰弱や骨折・関節疾患等によるものたちで、放っておけばみるみる重度化するケース。適切なサポート(自立支援)において改善の可能性が期待できる状態。
この改善の可能性があるケースに対し、積極的に改善に向けた検討をしていこうというものでしたね。
認知症や悪性腫瘍など、進行が予想される疾患においては、自立支援型のケア会議としては、積極的な想定はされていません。
ですが、介護予防支援そのものが、予防・自立の視点であるべきです。
もちろん病状の程度にも左右されるので、全く対象者としてなり得ないわけではありませんし、仮に認知症の方でも、軽度認定者である以上、まだまだ生活のクオリティ向上・自立支援に向けた検討の余地はあります。
慢性的な疾患や脳梗塞等の後遺症に伴う麻痺など、現状で症状が固定されつつあるものであっても同様。
どんなケースであっても、軽度認定者であれば、生活場面の範囲の拡大といった更なる生活クオリティの向上を目的として対象者選定になりえると思います。
『誰を挙げたら良いかわからない!』
と、ケース選定に迷った際には、軽度認定者をリストアップし、目をつぶって指をさした人。
要するにランダムに選んだケースを対象にしちゃいましょう。
自身が、このケースはこれ以上、テコ入れできない完璧なケースだと思っていても、様々な専門職からの視点で見直すことで、利用者本人にとっての新たな課題や、気づかなかった視点への指摘がいただけると思います。
それを踏まえて、プランを見直すことが、さらなる自立支援への一歩です。
アセスメントの視点と考え方
事例が決まったら、提供する前に不足している情報があれば集めましょう。このアセスメント視点は、事例提供になる前から日常的に実施されていると良いです。
課題に合わせた情報が集められているか。
運動面・生活面・社会面・医療面こういった基本的なアセスメント事項は、あらかじめ集めていく必要があります。
ただし、事例の中での課題やテーマとして挙げる部分については、掘り下げて情報を集める必要があります。
目標に必要な動作を細かく分け、一つ一つを課題分析していきます。
例:自分で買い物に行けるようになりたい。
この場合は、今の身体状態やリハビリや運動内容だけを伝えれば良いわけではなく、必要な動作を分け、どこが出来て、何が出来ないため、買い物に行けないのかを確認する必要があります。
- 行きたい店までの距離は何メートルなか
- 現在、何メートル程度歩けるのか
- 杖や歩行器があれば良いのか
- またそれを提案したか、その反応は?
情報だけでなく、解決策を提案したか、提案してどのような反応だったかを確認しましょう。
- 信号で渡りきる速さが問題か
- 階段や段差の問題か
横断歩道の長さと、信号の時間が分かれば、それに合わせたリハビリ・運動が行えますし、その手段に対し意見を貰えます。
段差に問題があると、杖や歩行器の利用がスムーズにいかないこともありますよね。
- どれくらいの量が持てるのか
- 買い物袋ではなく、リュックサックや歩行器の提案は行ったか
- それを受け入れなかったのは、なぜか
これくらいの情報が無いと、今の身体状態と運動内容だけ伝えられても、専門職の助言者は何の意見も出せません。
単に、歩けないから買い物行けないという際に、歩行器を使う提案が挙がっても、階段や段差が原因で導入が行えないこともありますからね。
ケアマネージャー自身が実際に歩いてみることも良いでしょう。
また、難しいと思われていても、ご本人に一度実践してもらい、その中で現時点では何ができて、何が出来ないを判断してもらうことも大切ですね。
こんな考え方が、日常的に行えていると良いのでしょう。
目標・見通しの考え方
課題に合わせた情報が集まってきたら、その現状から、目標・見通しを考えます。
- どこまで出来て、何が出来ないのか
- 何が原因で行えていないのか
この部分がアセスメント出来ていないと、見通しも目標も立てられませんね。
最終的な目標が先ほどの、『自分の足で買い物に行きたい』であった際には、その後の動作分析で挙げた内容に対し、小さな目標を立てます。
- 500m歩けるようになる(距離)
- 5mを何秒で歩けるようにする(速さ)
- 10センチの段差がスムーズに上がれるようにする(段差)
そこで、明らかに難しい目標になっていないかを、他のアセスメントから見通しを評価。
見通しを立てるためにも、現在どこまで出来るかの判断に、実際にお店までの道中や店内を歩いてもらうなどの挑戦があると良いですね。
目標は、本人の意向に沿った具体的なものにする
これもポイント。
自立支援で重視されるのは、『本人の意向』
そもそも本人が、自身の身体状態を客観的にとらえて、前向きな目標に迎える意向が出てこないと、自立支援は成り立ちません。
将来、どのような身体を目指したいか、どんなことをしたいか。などを聞き出したうえで、初めてそれに向けた課題検討が行えるようになってきます。
提案や促しは、時には必要です。ですが、押しつけの目標ではなく、自ら目標が描けるように提案をしていくことが必要ですね。
吊るし上げになってしまうケース
基本のアセスメントが揃い、課題と目標が出来上がっていれば、『吊るし上げ』として叩かれることはありません。それでも一部厳しい指摘が挙がることが想定されるので挙げておきます。
サービス利用の根拠が不十分
通所型のデイサービスを利用する際、自身の所属する法人へ無理に繋いだケース。
ご本人に対して必要なサービスが満たされていないにも拘らず、本人本位と異なる理由付けで導入されている場合。
必要なサービスと、実際のサービスにずれがある場合、その根拠がしっかり説明できることが必要ですね。
福祉用具においても、10年近くも同じ歩行器を利用している方もいます。
10年前の物は重さも機動力も現在の物と比べて劣っているもの多いでしょう。現在の身体状態に合わせた評価・提案をしていくことも大切です。
もちろん変更することがデメリットとなるケースもありますよね。その際には、その点に指摘をされたらそれを伝えて乗り切ります。
本人・家族の意向が不十分
『出来ていない』ことの『なぜ』が抜けてる場合
ケアマネージャー側が提案をしても、それを受け入れない場面は多くあります。提案をすることも大切ですが、『なぜ』行えない・行いたくないのかを確認することも必要。
その『なぜ』に解決する希望が隠れていますからね。
会議の事例提要で出した情報には、結果だけを残す場合が多いので、『なんで?どうして?』という質問は会議中に多く挙がります。
ケアマネージャーが良かれと思った調整を押し付け、ご本人の『希望・意向』が不十分な点も指摘要素。あくまで、利用者本位に対しての提案をしていくスタンスが必要です。
自立支援型事例提供のまとめ
『こんなケアプランじゃダメ』だとか、『なんでこれをしない!』なんて怒られるケア会議は、私自身は見たことはありません。
仮にそう言われても、ケアマネージャー自身が、直接本人と対面し、その中で作ったケアプランです。
事例の資料だけに目を通してた相手の発言に対し、過度に気にする必要はないと思います。
ただし会議に参加していると、『こんな視点は自分には無かった。』と参考になることは多くあります。
そういった視点への指摘には、耳を傾ける価値は大いにあります。
その新しい視点で、本人やケアプランを見つめ直し、今後に活かしていくためには、ケア会議の参加・事例提供は有効です。